小児の小腸疾患(クローン病)と小腸カプセル内視鏡 専門医へのインタビュー 小児の小腸疾患(クローン病)と小腸カプセル内視鏡


十河 剛 先生
十河 剛 先生
済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 副部長

■専門分野:肝・胆道疾患の診断と治療、人工肝補助療法、消化器内視鏡、
腹部画像診断

先生の病院にかかっているお子さんに多い消化器の病気を教えて下さい。

便秘症から急性肝不全のように突然肝臓が機能しなくなってしまう病気まで、肝臓・食道・胃から小腸・大腸までの病気を幅広く診療しています。肝臓の病気では、肝臓が自身を異物として認識してしまって、自身を攻撃して肝臓に傷害がおこる病気(自己免疫性肝炎)、肝臓が慢性的に炎症を起こすことによって胆管が細くなってしまう病気(原発性硬化性胆管炎)といった自己免疫性肝疾患と、B型肝炎、C型肝炎などのウィルス性肝炎が多いです。胃腸の病気では、便秘が最も多いですが、難病指定にもなっている大腸の内側が炎症を起こしてただれてしまう病気(潰瘍性大腸炎)、クローン病(質問10で詳細記載)といった炎症性腸疾患があります。また、食物に含まれる物質が抗原となって、アレルギー反応が原因で色々な胃腸の症状が出る好酸球性胃腸炎やアレルギー性胃腸炎があり、このような消化器の病気のお子さんが多いです。

どのような症状で受診されることが多いですか?

肝臓の病気では、血液検査で偶然に発見された肝機能異常が最も多いです。
胃腸の病気では、便秘症状が最も多いですが、腹痛、下痢、血便、嘔吐、嘔気、食欲不振などの消化器症状の精査希望で受診する子供も多いです。

便秘、腹痛、下痢、血便、嘔吐、嘔気、食欲不振などの症状が出た時に病院で受ける検査と主な特徴(メリットとデメリット)を教えて下さい。(小児の患者さんの負担も考慮してお答えください。)

肝臓の病気、胃から大腸までの病気で最初にする検査は、当院では腹部超音波検査です。痛みや放射線被曝もなく、情報量が多いのが特徴です。但し、術者の技術や経験が検査結果に影響を及ぼしたり、腸管にたまったガスや便で観察が難しい場合もあります。また、超音波による影を評価する検査であり、直接、病気が起こっている現場を見ているわけではないので、評価が難しいことがあります。
超音波検査の次のステップとしては、血液検査や尿検査を行うことがほとんどです。これらの検査で診断に結びつくこともありますが、直接、病気が起こっている現場を見ているわけではないため、血液・尿検査は診断の補助的価値が大きい検査です。
血液や尿検査の次のステップの検査では、疑う疾患によって、CT、MRI、画像検査、バリウム造影などの検査を行います。CTや磁気を用いたMRIは、術者の技術には関係なく一定の質の画像が得られ、コンピューター処理で3D構築した画像で評価することが可能です。放射線や磁気を用いた画像検査は、比較的体の負担の少ない検査ですが、CTやバリウム造影などの放射線検査は、放射線被曝が避けられないという問題があります。また、MRIは呼吸を止めないと、きれいな画像が得られないため、乳幼児では難しいことがあります。
内視鏡検査は消化管の病気の現場を直接みることが出来る検査ですが、小児では麻酔をかける必要があり、体にかかる負担は他の検査と比べると大きいです。但し、組織の一部を採取して、顕微鏡でミクロのレベルで現場をみることも可能で、胃腸の病気の診断には必須と言っても過言ではありません。また、ポリープを切除したり、出血を止めたり、狭くなった腸管を広げたりと、診断から治療につながるのが大きなメリットです。

カプセル内視鏡による小腸検査と他の小腸検査の違いは何でしょうか?メリットとデメリットを教えてください。

カプセル内視鏡は、体にかかる負担が少なく、病気が起こっている現場を直接みることができる検査です。小腸の病気は今まで現場を直接見るのが難しかったですが、カプセル内視鏡であれば、カプセル内視鏡を口から飲み込むだけで小腸の検査が出来ます。カプセル内視鏡は消化管の自然な動きで運ばれていくので、腸の中にある濁った腸液や便で病気が見つけにくい場合があります。また、体の外からカプセル内視鏡をコントロールして、見たい場所を集中的にみるということが今は難しく、さらに、診断ができても治療が出来ません。しかしながら、今まで現場を見ることが難しかった小腸の病気を直接観察して、診断に結びつけるようになったという点で画期的な検査です。

先生の病院では、年にどれくらいの小児患者さんが小腸カプセル内視鏡の検査を行っていますか?

年に30-40件程度です。

カプセル内視鏡は子どもでも飲み込めるサイズですか?

5歳くらいになると、飲み込める子もいます。中学生くらいになると、ほとんどの子が問題なく飲めるようになります。検査の前に、カプセル内視鏡と大きさが同じようなグミやジェリービーンズなどのお菓子を丸ごと飲み込む練習(医療従事者の監視下で行います)をしていると飲み込めるようになります。

カプセル内視鏡検査をされたお子さんの感想などを教えてください。

カプセル内視鏡が大きいので最初は不安が強いようですが、飲み込んでしまえば、「思ったよりもスルッと入ってしまう」という感想が聞かれます。

検査をされたお子さんのご家族の感想などを教えてください。

仮に何も病気が見つからなくても、小腸まで全部の消化器を観察できたという安心感はあるようです。

カプセル内視鏡で、どのような病気を見つけることができますか?

小腸に多くの病変があるクローン病は今まで診断が難しかったのですが、カプセル内視鏡だと、全小腸の病変を直接観察でき、一度の検査で精密な検査ができます。
また、原因不明の消化管出血でもカプセル内視鏡は出血部位の特定に役立ちます。

小児のクローン病についてどのような病気なのか教えてください。

口からお尻まで、食べ物の通るところに潰瘍やびらん、狭窄などの病変が出来る病気ですが、原因が分かっていません。腹痛、下痢や血便などの消化器症状があれば診断がしやすいですが、原因不明の発熱や成長障害、血液検査をすると炎症反応陽性がでる場合など、消化器の病気とは思えないような症状だけのときが少なくないのが小児のクローン病の特徴です。

小児のクローン病患者さんが注意すべきことなどアドバイスがありましたらお知らせください。

腸を出来るだけ手術で切らずに長持ちさせることが大事なので、栄養療法や薬物療法を主治医の指示通りに行うことが大事です。

病院に受診したほうがよいと思われるクローン病の症状とはどのようなものですか?

腹痛、下痢、血便などの消化器症状以外にも、原因不明の発熱、体重減少、成長障害、関節痛などがあったら病院を受診した方が良いです。
下痢はトイレに行く回数で判断することは難しいですが、ご家族がトイレに行く回数と比べて、明らかに多いようであれば、お子さんに下痢症状が無いか確認してみてください。

クローン病のお子さんに対して家族や学校で注意してあげられることなどはありますか?

病気がない子と同じように生活をすることが治療の目標なので、クラブ活動や修学旅行も極力参加できるように主治医の先生とよく相談することが大事だと思います。また、「病気」と思うと、落ち込んでしまうので、私は外来では、「『病気』というより、花粉症や食べ物のアレルギーみたいな『体質』だよ。」という話をします。本人がクローン病に向き合っていけるように周囲が接してあげることが大事だと思います。