大腸がんと自覚症状編 専門医へのインタビュー 大腸がんと自覚症状編


腸に関する病気やその治療法や検査法について、専門の先生にお伺いしました。
斎藤 豊 先生
斎藤 豊 先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター長、内視鏡科 科長

■ 専門分野:
消化器内視鏡診断・治療。特に大腸早期がんの拡大診断・ESD 治療

お腹がぐるぐる音を立てることがあるのですが、病院に行った方がいいですか?

お腹が音を立てる腹鳴は、ガスや消化物が腸管内を通過する時に起こるもので、それ自体は健康な人にもよくみられます。しかし、お腹が強く張るような腹部膨満感が同時にみられる場合には腸の通過障害が疑われ、がんが関わっている場合も考えられます。こうした症状が長引くようならば受診が望ましいでしょう。

腹痛をおこすことがありますが胃腸薬等で治めています、この対処法で大丈夫でしょうか?

腹痛は、内臓の異常からストレスまで原因はさまざまです。病気が原因となる場合には、下腹部痛ならば腸の疾患も考えられます。大腸はそもそも痛みを感じにくい臓器ですが、内部に病変ができて幅が狭まると、内容物を通すために腸の運動が高まって腹痛が起こりやすくなります。薬で痛みを紛らわすのは賢明とは言えません。

便秘が続くようになったのですが、大丈夫でしょうか?

便秘は大腸の蠕動運動の低下なども原因となりますから、必ずしも病気によるものばかりではありません。ただ、大腸がん患者では便秘と下痢が交互に繰り返し起こるという便通異常が特徴の一つになっています。この症状は、S状結腸や直腸など肛門に近い大腸に生じたがんでよくみられます。

便が細くなってきたら要注意でしょうか?

排便が切れ切れに細くなるというのも、肛門近くに起こるがんでみられやすい症状です。特徴的な症状にはさらに、排便の直後にもかかわらず便がまだ残っているように感じるというものもあります。いずれもがんが進みつつあることを示していますから、こうした状態が続く場合には速やかに受診してください。

一度でも血便が出たら病院に行くべきでしょうか?

血便や下血といった出血も、直腸などに生じたがんの代表的な症状です。痔による出血との区別がつきにくい一面がありますが、発生部位が肛門に近いため、がんがそれほど進んでいない段階でもよくみられます。早期発見という意味から、また痔との鑑別を確実に行うためにも進んで医師の診察を受けましょう。

便が固いときに下血が起きることがあるのですが、問題ありますか?

便の排出後に下血が起こるような場合には、痔核や裂肛などが考えられます。注意したいのは便に血液が付着するように出てくる状態で、このような例では大腸からの出血が疑われます。いずれにせよ、日頃から便の性状や出血の有無、状態に注意することは大切といえます。

血便の血の色ですが、鮮やかな赤のときと黒っぽい赤のときがあると聞きました。 どう違うのでしょうか?

血便は含まれる血液がどこで出血したかによって色が違ってきます。肛門近くで出血すると排便時に血液がまだ新鮮なため赤みのある便に、肛門より遠くで出血すると排便までに血液が変化するため赤黒い便になります。ちなみに胃や十二指腸から出血すると、便はタールのように黒くどろどろとした状態になります。

血便や下血がなければ大丈夫でしょうか?

大腸がんの症状は、発がんした場所によって異なります。出血症状は、大腸の左半分や肛門近くのがんでは便の色などから気づきやすい反面、がんが右半分にある場合には判断は難しくなります。出血量がごく微量なこともありますから、見た目に血便や下血がないからといってがんが否定できるわけではありません。

大腸がんになったら痛みはありますか?

大腸の内壁には痛みを感じる神経がありません。そのため、早期がんの段階では痛みを自覚しないのが通常で、がんが原因となる疼痛がみられた時はすでに大腸の最も外側にまでがんが到達していることが少なくありません。逆に言えば、痛みを感じる前に発見することが極めて重要です。

大腸がんになると貧血になると聞いたことがありますが、本当でしょうか?

貧血とは、赤血球が減少して身体への酸素の供給が不十分となる状態です。原因はさまざまですが、体内で出血が長く続くことで起こることもあります。大腸がんでは、病変からの出血が初期段階から持続するため、進行するにしたがって貧血が現われやすくなります。早期がんで貧血になることは稀です。

「大腸がんかも」と気になったときに受診するのは内科でいいですか?

身近では、消化器内科、消化器外科、大腸肛門科などを診ておられる診療所を訪ねるのが適切です。病院でも同様ですが、検査を担当する科が決まっている場合もありますので、窓口で相談してみてください。最近では、総合診療科を置く病院もありますから、まずはそこを受診するのも方法の一つです。

便以外で何か症状や兆候はあるのでしょうか?

便通異常や血便以外でも、持続する腹痛や腹部膨満感、貧血、体重減少など、大腸がんがみつかるきっかけとなる症状は少なくありません。しかし、重要なのは初期の大腸がんでは症状はほとんどみられないという点です。症状や兆候の出現以前に、早期発見を目的とした検診を重視するべきでしょう。

痔か大腸がんか、自分で見極めることはできますか?

排便後に拭き取った紙に血がついていたりすると驚くものですが、逆に痔を経験したことがある方などではそれほど重大なこととは思わないこともあるでしょう。しかし、出血が痔によるものか、他の病気によるものかの判断はそれほど簡単ではありません。ぜひ専門家の判断を仰ぐようにしてください。

痔と診断されても出血が続いたら別の病院に行った方がいいでしょうか?

問診、視診、触診、肛門鏡や最終的に全大腸内視鏡まで、検査が順序だてて適切に行われ、痔と診断されているならば安心してよいと思います。痔の出血は再発することが比較的多いとされていますから慌てることなく治療を続け、便通異常など他に気になる症状がみられた場合には、まず主治医への相談をおすすめします。

大腸がんを疑った場合、先生から言われなくても、内視鏡で診てくださいと言ってもいいのでしょうか?

便通異常や出血などの症状が明らかな場合、医師の側から内視鏡検査の必要はないと断言することははまずありません。検査方法を選択するのは患者さんご自身ですから、自覚されている症状を医師に正確に伝え、相談をしながらご自身のお考えを伝えてください。ただし消化器内科や内視鏡科などの専門家以外ではいまだ大腸内視鏡検査は大変な検査で、よほどのことが無い限りオーダーしないといった場合もあります。そのような場合は、ご自分から希望を言っても良いでしょう。