大腸がん予後のフォロー編
腸に関する病気やその治療法や検査法について、専門の先生にお伺いしました。
斎藤 豊 先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター長、内視鏡科 科長■ 専門分野:
消化器内視鏡診断・治療。特に大腸早期がんの拡大診断・ESD 治療
手術をした後も仕事は続けられますか?
大腸に限らず、がんの手術後にはさまざまな生活上の不都合が起こりがちです。しかし、そうした中で療養を続けながら、お仕事を続けている方は数多くおられます。治療費や就労などに不安がある場合には、全国に400施設以上あるがん診療連携拠点病院の相談支援センターに相談することもできますので活用してください。
転移する可能性はありますか?
転移とは、がんが発生した場所からがん細胞が血液やリンパ液に乗って他の臓器などに移動して増殖する状態をいいます。大腸がんの手術治療では、大腸をがんの前後で切り取り周囲のリンパ節も切除しますが、それまでにわずかながん細胞がすでに移動していることがあります。進行した大腸がんでは、肝臓、肺への転移が多くみられます。
再発することはあるのでしょうか?
手術や薬物療法などで切除または縮小させたがんが、再び目に見えるようになった状態を再発と呼び、元のがんの近くに起こるもののほか、転移した臓器でがん細胞が増える場合もこれに含まれます。国内の調査では、大腸がんの再発率は平均17%、進行度が高いがんでは30%に達するとされています。一方早期がんでは再発することは稀です。
再発しないようにする予防などはあるのでしょうか?
目に見えないがん細胞を、抗がん剤を使って叩く術後補助化学療法という方法があります。リンパ節に転移がみられた例、あるいはがんが大腸壁の筋肉層の外側まで達したもののうち再発の危険性が高い例が対象となります。後者に当てはまる患者さんでは、この化学療法によって再発率が明らかに低下することがわかっています。また再発しても早期に診断できれば再度治療することも可能ですので、しっかり主治医の指示に従い通院することが重要です。
手術した後は、どんなことに注意しないといけないのでしょうか?
腹腔鏡下手術の場合は、術後は比較的早く日常生活に復帰できます。開腹手術を行った場合でも食事制限などは特にありませんが、しばらくは腸の働きが低下していますので消化のよくない食品や食べ過ぎに注意しましょう。また、軽い運動は腸の運動を高めて好都合ですが、筋肉を強く動かすような激しい運動は控えてください。
お酒を飲んだり、たばこを吸うことはできますか?
過度の飲酒は大腸がんの発症リスクを高めることが知られています。お酒を止める必要はありませんが、やや少なめに控えておくという習慣を身につけてください。たばこは、大腸がんに限らずがんの大きな要因となりますので、ぜひ禁煙をお願いします。
検査はどれくらいの間隔で受ければいいのでしょうか?
再発が起こっても、早めに発見できれば再手術や抗がん剤による治療などの手が打てます。大腸がんの手術後に再発した人のうち、80%は3年以内、95%は5年以内にみられていますから、少なくとも術後5年間は、腫瘍マーカー、CT、大腸内視鏡、直腸指診などによる定期検査を医師の指示にしたがって受けるようにしてください。
家族や職場の人に病気について理解してもらうために伝えておくべきことはありますか?
手術などの治療が終わり退院の時期を迎えると、管理栄養士による食事指導ほか日常生活に関する注意事項の説明を受けることがあります。そうした機会にはご家族に同席していただくとお互いの理解が深まります。また、抗がん剤治療を受ける場合には、副作用の可能性があることなどを職場に伝えておくとよいでしょう。